IBM Power Systems Virtual Serverを詳細チェック!|IBM Power Systems Virtual Serverを考える②

このパートでは、日本IBMへの取材をベースに「IBM Power Systems Virtual Server」(以下、Power Virtual Server)の概要をまとめる。日本IBMの髙木泰成・三ヶ尻裕貴子・安田智有の3氏に話をうかがった。3氏による解説は多岐にわたり重複する部分も多いため、発言はとくに明記していないことをお断りします。

リソースを選択する

 
リージョン/データセンターの選択

 Power Virtual Serverを利用できるデータセンターは2020年12月末現在、世界で11カ所ある。10月に東京リージョンの「TOK04」データセンターでスタートしたときは「世界で10番目」だったが、現在は11番目のブラジル「サンパウロ 01」が追加されている(図表1)。2021年3月には大阪リージョンでの提供も予定されている。IBM Cloudのデータセンターは世界に50カ所以上あるので、Power Virtual Serverの拠点が増えていく“のびしろ”はまだたくさんありそうだ。

 
サーバー、CPU

 TOK04データセンターには、Power S922とPower E980が設置されている。CPUは、S922・E980とも0.25コアから利用でき、共有タイプの場合は0.1コアずつ、専有タイプは1コアからスタートし、1コアずつ増やすことができる。コア数の最大値は、S922が15コア、E980が143コア。S922の1 LPARの最大数は4コアなので、それ以上のCPUパワーが必要な場合はE980を選択するか、LPARを増やす必要がある。
 CPW値は、最小の0.25コアで、S922が4750CPW(機械グループはP10相当)、E980は3968CPW(機械グループはP30相当)。4コアまでの利用ならば、S922のほうがE980よりもCPW値は高く、安価である。
 ユーザーがパッケージソフトを持ち込んで利用する場合、機械グループのライセンス料金が適用されると、P05レベルで利用したいユーザーにはハードルが高くなる。そのためツールベンダーのなかには、P05相当の料金でパッケージソフトを利用できるようPower Virtual Server用にライセンス料金の改訂を検討するところがある。

メモリ、ストレージ 

 メモリはS922・E980とも2GBから利用でき、1GBずつ増やせる。メモリの最大量は、S922が1コアあたり64GB、15コアで942GB。E980は1インスタンスあたり最大23TBである。
 ストレージは、Tier1かTier3のいずれかのタイプを選択する。Tier1はNVMe使用のフラッシュストレージ、Tier3はSSD。1秒あたりのI/Oは、Tier1が10 IOPS/GB、Tier3が3 IOPS/GBで、100GBのTier1ストレージならば1000 IOPS、100GBのTier3ストレージでは300 IOPSまでのI/Oが可能である。ストレージのボリュームを追加するときは、1つのインスタンス上でTier1とTier3を混在できないため、同一のタイプを選択する必要がある。

専有・共有

 Power Virtual Serverでは、システムを「専有」で利用するか「共有」かを選択できる。「専有」は、1つのLPARを独占して使用するタイプ、「共有」には「上限あり」と「上限なし」があり、「上限あり共有」は、LPAR内のリソースを他のユーザーと共有しつつ利用可能なリソースの上限値を設定するタイプ、「上限なし共有」は上限値を設定せず、LPAR内で必要なリソース量までスケールアップできるタイプである。

OSの選択・持ち込み

 OSは、IBM i、AIX、Linux on Powerから選択できる。IBM iは7.2、7.3、7.4から選択する。オンプレミスで7.2より前の環境で業務アプリケーションを稼働させている場合は、オンプレミスのOSを7.2以降にアップグレードしてからマイグレーションする必要がある。7.2は、6.1および7.1から直接アップグレードが可能。そのほかは、おのおのの移行パスを経由する必要がある。また、各バージョンでPTFレベルが選択できる。

 Power Virtual ServerのIBM iには、40種類以上の「IBM iライセンス・プログラム製品 (LPP)」がバンドルされている。たとえば、「HTTP Server for i」や「IBM i Access for Windows」といった基本的なプログラムである。このほか、追加費用が発生するライセンスとして、以下の4種類がある。

 AIXは7.1と7.2をサポートする。Linuxは、SUSEとRed Hat Enterprise Linuxを持ち込みOSとして使用できる(ユーザー指定のサブスクリプション)。SUSEは、SLES for SAP(HANA)とSLES for SAP(NetWeaver)が選択可能である。
 なお、Power Virtual Serverを利用するときは新規契約になるが、オンプレミスでIBM i 7.2以降、P10以上のPower Systemsで稼働中のシステムの移行であれば、OSライセンスを継承して利用できる。

ネットワーク構成

 Power Virtual Serverは、x86ベースのIBM Cloudとは独立して管理されている。Power Virtual Serverのエリアとx86ベースのエリアは、「Direct Link Connect」という最大5GbpsのL3ネットワークでつながる(図表の黒線、図表2)。
 一方、オンプレミスとPower Virtual Serverの間は、パブリックとプライベートの2種類のネットワークが利用できる。x86ベースのIBM Cloudでは2種類のネットワークを標準で利用可能だが、Power Virtual Serverでパブリックネットワークを利用する場合は、ボタンを「オン」にして指定する必要がある。ただし、パブリックネットワークは外部公開用ではなく、管理用としての利用が前提になっている(図表の赤線)。

 

本番利用を想定したネットワーク

 Power Virtual Serverの用途としては、業務用、開発・テスト用、バックアップ・BCP用などさまざま考えられるが(後述)、そのためのネットワークとしては、インターネット経由のIPsec VPN接続、Direct Linkによる専用線接続、Megaport利用による直接接続、の3つが現実的な解である(ほかにSSL-VPNを利用する方法がある)。

・IPsec VPN
 IPsec VPN接続は、オンプレミスとIBM Cloud(x86エリア)の間で拠点間VPN(ルータ間でVPN)を確立し(図表の緑線)、さらにx86エリアとPower Virtual ServerとをDirect Link Connectで結ぶ(黒線)構成である。ルータ間のVPNなのでLAN上の端末に変更を加える必要がないのと、x86エリアのゲートウェイ・アプライアンス(*VRA)上のNAT設定で、オンプレミスからのアクセスが可能になるメリットがある。 *VRA:IBM Cloud Virtual Router Appliance

・Direct Linkによる専用線接続
 オンプレミスとIBM Cloud(x86エリア)間にキャリア回線を利用するDirect Link(L3接続)を設置し(図表のオレンジ線)、さらにx86エリアとPower Virtual Serverとの間をDirect Link Connectで結ぶ(黒線)構成である。ゲートウェイ・アプライアンスにNATを設定することにより、オンプレミスからのアクセスが可能になる。

・Megaport利用による直接接続
 オンプレミスからキャリア回線経由でMegaportに接続し、MegaportからPowerネットワークに直接接続する構成である(図表の茶線)。オンプレミスからMegaportまでの“ラストワンマイル”はユーザーがキャリア事業者から購入する必要がある。MegaportとPowerネットワークとの間は、10Mbps〜10Gbpsの帯域で回線速度を選択できる。

 以上3種類のネットワークは、スピード、信頼性・可用性、セキュリティなどで違いがあり、ユーザーは目的に応じて選択できる。その目的に応じてネットワークを選択できる点がPower Virtual Serverの特徴だが、そのぶん、ネットワークの知識・スキルが必要になる。今回取材したベンダーからは、「Power Virtual Serverの構築・運用には、ネットワークエンジニアの介在が不可欠」という声が多く聞かれた。

Power Virtual Serverへの移行

 オンプレミスで利用中のシステムをPower Virtual Server上へ移行するには、「IBM iコマンドで実施する」「Power VCを利用する」「可搬型ディスクを利用する」の3通りの方法がある。

・IBM iコマンドで実施する
 IBM Cloud Storage Solution for i(ICC)を利用する方法で、オンプレミスのデータやシステムをSAVSYS・SAVLIBなどで仮想テープ装置へロードし、それをCPYTOCLDコマンドでIBM Cloud上のICOSへ転送する。そしてICOSからPower Virtual Serverにデータをインポートして展開する方法である。

・Power VCを利用する
 オンプレミス側に仮想化ツールのPowerVCを導入し、PowerVCで作成したOVA形式のイメージをIBM Cloud上のICOSへ転送する方法である。ICOSからPower Virtual Serverへデータを送信し、展開してPower Virtual Serverを構成する。

・可搬型ディスクを利用する
 IBM Cloud Mass Data Migration(MDM)と呼ぶプログラムを利用する方法で、オンプレミスのデータを、3泊4日用キャリーケースほどの大きさの可搬型ディスクに保存し、それをデータセンターに移送してPower Virtual Serverへ取り込む方法である。大量データやシステムの移行によく使われている方法という。

データバックアップ

 Power Virtual Serverでは、データのバックアップにテープ装置を利用できない。
 標準的なバックアップは、IBM Cloud Storage Solutions for i(有償)とIBM iライセンス・プログラム製品(LPP)で提供されているBRMS(5770-SS1:IBM iオプション44 Encrypted Backup Enablement)を使う方法で、IBM iのOSコマンド(CPYTOCLDなど)を使って、LPAR内のボリュームの自動バックアップや管理が行える。
 データのバックアップ先は、x86エリアのIBM Cloud Object Storage(ICOS)。ICOS経由で別のストレージや異なるデータセンターへのデータ転送も行える。

HA・DR・高可用性

 IBM Cloudでは、「アベイラビリティ・ゾーン」と呼ぶ高可用性(HA)を備えたプラットフォームが提供されている。同一リージョン内の異なる3カ所以上のゾーン(データセンター)を組み合わせて冗長化し、低遅延広帯域回線(1.2Tbps)で連結するソリューションである。しかし、東京リージョンでは現在、TOK04データセンターでしかPower Virtual Serverが提供されていないため、アベイラビリティ・ゾーン内でHAを組むことができない。

 IBMから現在提供されているPower Virtual ServerのHAソリューションは、「PowerHA System Mirror for i」である。IBM iの独立補助記憶域プール (IASP)に保存されたデータを地理的に離れたストレージにコピーするソリューション(地理的ミラーリング)で、コピー先はクラウド上でもオンプレミスでもよく、クラウド-クラウド、クラウド-オンプレミスなどの多様な構成を選択できる。

 また大阪リージョンでPower Virtual Serverが提供されると(2021年3月予定)、東京と大阪間でDR(障害・災害対策)システムを組むことができる(IBM Cloudではデータセンター間の回線料は無料)。このソリューションに対して、日本IBMへの問い合わせが増えているという。

見落とせない重要事項

 Power Virtual Serverの利用にあたっては、いくつか考慮事項がある。主な事項を整理してみよう(図表3)。

 
 
V.24通信アダプターの利用

 IBM iにV.24通信アダプターを接続して全銀ベーシック手順やJCA手順でEDIを行っているユーザーは、Power Virtual ServerではV.24通信アダプターが利用できないので、全銀TCPや流通BMSなどのインターネットEDIへの切り替えや、ベンダー提供のソリューションへの変更が必要になる。

1次言語

 Power Virtual Serverの1次言語は、英語(2924 SBCS)である。そのため日本の大多数のIBM iユーザーは、1次言語の置き換え作業による日本語への切り替えが必要になる。日本語は、2次言語として「日本語2930」が導入済みだが、「日本語2962」は追加導入が必要になる。

ベンダーソフトウェア

 Power Virtual ServerはIaaSであるので、OSのバージョン管理を含め、OSより上位層のミドルウェア、アプリケーション、データの管理はユーザーの責任範囲である。ここで留意すべき事項が生じている。ベンダーのソフトウェアをPower Virtual Serverに持ち込む場合だ。

 ベンダーのソフトウェアをオンプレミスで利用する場合、ライセンスの管理は、一般的にPower Systemsのシリアル番号(マシンシリアル)に紐づけてなされている。一方Power Virtual Serverでは、マシンシリアルはインスタンスの作成時に付与され、別のLPARへインスタンスが移動したときは、そのLPARのマシンシリアルが付与される仕組みである。するとPower Virtual Serverではマシンシリアルが都度変わるので、従来のライセンス管理は行えないということになる。

 このことはベンダー側が対処すべき事項であり、実際にPower Virtual Serverに合わせてライセンス管理の仕組みを変更するベンダーも出ているが、ユーザーがベンダーソフトウェアを利用する際は、Power Virtual Serverへの持ち込みが不可または条件付きということも想定されるので、確認が必要である。

 なお、Power Virtual Serverの機能として、インスタンスの作成時に別のLPARへの移動の可否を選択する仕組みが設けられている。「オフ」「ハード」「ソフト」の3種類あり、「オフ」は別LPARへの移動可、「ハード」は使用中のLPARで障害が起きても別のLPAR に移動しない、「ソフト」は別のLPARへの移動が可能で、元のLPARが使用可能になると戻す設定である。

5250コンソール、HMC

 Power Virtual Serverでは、5250コンソールやHMCを使用しない。Webブラウザベースの管理コンソール画面が提供され、CPUやメモリなどのリソースの変更は、IBMCloudのメニューから行う仕組みである。

OSの管理、PTF適用

 Power Virtual Serverで利用可能なIBM i(OS)のバージョンは、Power Virtual Serverのマシンがサポートしているもので、オンプレミスと同様である。最新のTRとPTFが指定され、メニューから選択して適用できる。OSのバージョンアップやPTFの適用、運用管理はユーザーの責任範囲。異なるPTFレベルを使いたい場合は、その環境をPower Virtual Serverのモデルがサポートしている範囲で持ち込むことができる。使用開始後のPower Virtual Serverのバージョンアップは、新しいバージョンへのスリップインストールのイメージで直接更新できる。 

SWMAによるサポート、サポートの種類

 Power Virtual ServerではSWMA(ソフトウェア・メンテナンス)サポートはなく、技術的なQAはIBM Cloudのサービスメニューに準拠している。
 IBM Cloudのサポートには、無償の「基本サービス(ベーシック)」と、有償の「アドバンスト」「プレミアム」がある。英語によるサポートは24時間365日の対応となっている。

6つのユースケース

 日本IBMではPower Virtual Serverの利用形態として、図表4のような6つのユースケースを挙げている。ここでは「開発・テスト・検証」「障害・災害対策」「クラウドへの段階的移行」に触れる。

 
開発・テスト・検証

 オンプレミスのIBM i上で、業務システム環境と開発・テスト環境を分けずに運用しているユーザーは少なくない。それで問題が生じるわけではないが、大型の新規プロジェクトやテストを頻繁に行う場合は、本番システムへの影響を懸念して別環境のニーズが高まる。また、オンプレミスにない最新の環境で業務システムを検証したいというニーズもよくある。
 そうしたケースでは、時間単位で利用可能なクラウドがコスト面、利用開始までのリードタイムでメリットがある。とくにPower Virtual Serverでは、IBM Cloud(x86 エリア)上の豊富なサービスを利用して開発・テスト・検証が行えるのもメリットで、Power Virtual Server上で構築したものをそのまま本番環境へ移行することもできる。

障害・災害対策

 オンプレミスの本番システムと同じ構成のシステムをPower Virtual Server上に用意し、ベンダーソリューションを利用してHAを構築できる。本番システムからバックアップ環境へ常時レプリケーションを行う、オンプレミス-クラウドのHAである。

 もう1つ、Power Virtual ServerならではのHAの組み方がある。本番システムのPower Systemsと同じアーキテクチャのPower Virtual Server上に災害対策用の環境を構築しておき、それとは別に災害・障害時に必要なデータを最小限に絞ってICOSにコピーしておく。さらに災害・障害時の立ち上げに必要な定義情報をコード化してPower Virtual Server上に保管しておく。そしてオンプレミスの本番機が被災したときに、定義情報を利用してPower Virtual Server上にデータをロードし本番システムを起動する、というやり方である。この方法であれば、平常時は最小限の利用(コスト)で済み、有事の際だけシステムを再現し業務を継続できる。

クラウドへの段階的移行

 オンプレミスで利用中のモノリシックなIBM iアプリケーションにコンテナやマイクロサービスの要素を加えて改修し、あるタイミングでクラウドへ展開したいと考えるユーザーが増えつつある。コンテナを利用すればアプリケーションの改修を部分的に済ますことができ、改修や拡張をより迅速に行えるようになる。しかし、運用中のシステムを一気にコンテナ化しクラウドへ上げるのは現実的でない。 

 そこで日本IBMが提案しているのは、オンプレミスのIBM iシステムの隣にOpen Shiftの区画を設け、そこでIBM Cloud Pakを利用してIBM iアプリケーションを部分的にコンテナ化・マイクロサービス化していき、段階的にクラウドへ上げるという方法である。

 コンテナやマイクロサービスならばクラウドへの移行が容易。また1回のビルドでオンプレミスへもクラウドへもデプロイできるメリットがある。海外ではこうした形でモダナイゼーションを進める事例が増えているという。

[i Magazine・IS magazine]

*本記事はi Magazine 2021 Winterに掲載されたものです。(c)i Magazine 2021


 
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